ミッション

地域交流による海浜植生復元への試み~

「北の里浜 花かけはしネットワーク」の始動~

被災後の浜で咲くハマヒルガオ
被災後の浜で咲くハマヒルガオ

1.壊滅しなかった海辺の植物と人々の想い

2011年3月11日に起こった未曾有の大震災は東北を中心とした太平洋沿岸に甚大な影響を及ぼしました。直後に訪れた被災地では、家も木も流され、更地となった荒涼とした土地が広がっていました。しかし、海岸へ行くと、多くの松林が折れたり倒れたり立ち枯れている中で、ハマヒルガオが何事もなかったかのように静かに、しかし力強く花を咲かせている様子に、海辺で生きる生命の強さを感じ勇気づけられました。1年後、現地で復興を目指す地域の方々や生態系の保全・復元に奔走されている方々にお会いし、彼らが抱える深い悲しみとそれにも勝る強さを感じました。皆、海辺の自然とともに暮らし、それらを大切に思い、元の自然が戻ることを願い、活動していました。海辺で暮らす人々の中にハマヒルガオを見た思いでした。

 
進む防災工事
進む防災工事

2.再び危機に瀕している海浜植生

それから3年、なかなか思うように進まない復興事業に対し、復旧事業は仙台海岸から防潮堤と海岸林の復旧工事が急ピッチで進んでいます。十分なアセスもないまま進められるこれらの大規模造成により、少しづつ回復してきた海辺の生態系が再び失われてきています。ハマヒルガオのような海浜植物群落は適度な撹乱・環境圧により成立する群落ですが、その生育適地は防潮堤と海岸林盛土により奪われてしまいました。防潮堤の背後(陸側)では環境が安定してしまい、また盛土を山土により行っているため海浜植物の生育基盤である砂丘未熟土も失われてしまいました。チップマルチングをしているとはいえ帰化種に覆われるのは時間の問題だと考えられます。防潮堤の前面(海側)では(特に砂浜の狭い箇所においては)海水の影響を受けすぎて、これも定着には厳しすぎる環境です。

 

日本には自然状態の砂浜海岸は総延長の10%程度であるのが現状で、海浜植物群落の発達した砂浜海岸はごくわずかです。海浜植物群落や高山性植物群落からなる自然草原の残存面積が国土の2%に満たないことからもその希少性が分かります。海浜植物群落は様々な恩恵(生態系サービス)を提供してくれます。例えば、移動する砂を留め、砂丘の形成を促進し、自然堤防を形成してくれます。防潮堤のない北海道石狩海岸では、汀線から250mの範囲に2つの大きな砂丘列がありますが、海側の第一砂丘の高さは4~6m、ひとつ陸側の第二砂丘の高さは8~12mにもなっています。またセリ科のハマボウフウは、昔から海岸地域の食材でもありますし、数少ない海浜性の動物を育む生態系を支えています。さらに砂丘は淡水を涵養することから、古くから砂浜には井戸が掘られ名水として利用されてきました。オランダでは砂丘水として水道水に利用しているそうです1)。砂浜を覆う植物群落は内陸への飛砂を防止し、海岸林の形成を助け、更に内陸の農地や住宅地への潮や風の緩和に役立っています。そして更に重要なことは、高波などで破壊されても回復するということです。まさに恒久的なレジリエンスと言えます。このような貴重かつ重要な海浜植生が、次々失われているのが復旧事業のひとつの側面でもあります。

3.北海道からできること

このような状況に対して、異を唱える現地の方々は少なくありません。防潮堤計画についての議論が活発になされている地域もあり、海辺の自然も活かした復興を求める声も聞かれます。しかしながら、現地では海浜植物の保護にまで労力を十分に割けないのが現状です。時間も人も場所も足りないのです。そんな中、北海道に住む私たちに何ができるだろうか?そう考えて周りを見渡すと、同じように「何かしたい」ものの、継続的支援が難しいことから二の足を踏んでいる人々がたくさんいることに気づきました。さらに、北海道には全国的にも珍しい、海浜植物の保護増殖に取り組んできた石狩浜海浜植物保護センター(石狩市)や自生種の増殖技術をもつ雪印種苗株式会社(札幌市)があり、東北に不足している様々な資源がありました。

4.「かけはし」として目指すこと

私たちは、海浜植物を通して東北の人々と北海道の人々をつなぐ「かけはし」になりたいと考え、「北の里浜 花のかけはしネットワーク(通称:はまひるがおネット)」を立ち上げました。復旧工事により消失する東北の海浜植物群落から今ある海浜植物の種子を集めて、北海道で育苗し、再び現地の適地あるいは近隣小学校等に移植することを目的とします。あの日生き残った植物たちを守り、被災地の復興への希望の光を絶やさないようにしていきたいと思います。そして、海浜植物群落の回復がハチやバッタなど元の生態系の回復につながり、その恵みを受けていた海辺の文化の保全・再生につながることを目指します。

5.遺伝子攪乱防止への配慮

海浜植物には海流散布を行うものが多いことから、地域性にはあまりナーバスになる必要はないかもしれませんが、確証がない以上、種子の移動は本来、行わないほうが望ましいと思います。しかし、前述のとおり東北での育苗等が困難な状況であるため、以下の原則にもとづき北海道で育苗することとしました。

・育苗は石狩浜海浜植物保護センターや雪印種苗等に限定し、種苗の逸失や雑草の混入が起こらないようにする。また花粉が広がらないよう、開花前に現地に移動させるか、間に合わない場合は花芽を除去する。

・育てた苗を植える場所は、種子の採取地周辺に限定する。

・種子の履歴をきちんと残し、北海道を含め他地域に拡散させない。

・育苗から植栽へとつなげていく。

・自宅で栽培したいという方に対しては、海浜植物保護センターにて配布している石狩浜の種子を記念に持って帰ってもらう。

キックオフフォーラムを開催
キックオフフォーラムを開催

6.キックオフ・フォーラムを開催

このプロジェクトをスタートさせるにあたり、被災地で活動されている方々の生の声を北海道に届け、プロジェクトの趣旨に対する理解を深めるとともに賛同者を集めることを目的として、2014年3月5日(水)キックオフ・フォーラムを札幌にて開催しました。フォーラムでは現地で復興を目指す「三陸ひとつなぎ自然学校」(釜石市)の伊藤聡代表、「ゆりりん愛護会」(名取市)の大橋信彦代表、「わたりグリーンベルトプロジェクト」(亘理町)の松島宏佑事務局長、それと海辺のエコトーンを守るために奔走していた平吹喜彦東北学院大学教授を招き、被災地の状況・求めている支援について説明してもらいました。

 

フォーラムには50名以上が参加。多くの方から「被災海岸の自然を回復させる手伝いをしたい」「むしろこのことを通して現地の方々から学ぶべき」「自分たちのスキルが役に立つなら何でもする」などの熱い想いやエールも飛び交い、「3年経って支援してもらいたいことはまだまだあるが、これからは支援というより学び合いましょう」という東北からの提言に共感して、スタートを切りました。本フォーラムでは講演者の交通費等開催に係る経費を、Ready For? というクラウドファンディングサービスにより行い、約70名の方々から支援をいただき開催することが出来ました2)。

石狩でのタネ播き
石狩でのタネ播き

7.実際の活動へ

プロジェクト立ち上げに先立って2013年の秋に、仙台海岸と釜石で海浜植物(ハマヒルガオ、ウンラン、ハマニガナ、ケカモノハシ、ハマボウフウ、コウボウシバ等)の種子を採取しました。これらの種子は一部は採り播きし、残りは冷蔵保存しておきました。

いよいよ遅い春を迎えた北海道でネットワークの協力団体とともに育苗をスタートさせるべく播種を始めています。5月18日(日)に市民団体「手稲さと川探検隊」との活動を皮切りに、5月19日(月)には市民団体「いしかり海辺ファンクラブ」と石狩浜海浜植物保護センター、そして5月22日(木)には雪印種苗株式会社にて簡単な勉強会の後、ビニールポットや育苗箱に播種しました。今後も市民団体「リバーネット21ながぬま」や石狩市内の中学校での播種が予定されています。

育苗箱で発芽した苗は、夏にはポットに皆で植え替えて育て、その中で充分に生育して現地植栽が可能なものから1,000株程度を、この秋に現地に北海道から持って行って、被災地の方々とともに植栽し、交流したいと考えています。そしてこの活動は、助成制度やクラウドファンディングによる資金調達も活用し、北海道と東北を結んで今後3年一区切りとして続けていくことにしています。

今回のような被害規模の大きな災害後の防災工事においては、本来全体のグランドデザインを決め、その際には失ってはならない自然環境をも考慮しながら進める必要があります。防災施設の配置は全体計画の中で位置づける必要がありますが、うまくいっているとは言い難い状況です。防災事業の中であまり顧みられていない海浜植物の保全を、市民が広域ネットワークで行なうことで、今後の復旧工事や東南海地震対策などで行なわれる海岸防災事業においても、考慮されるきっかけになれば幸いです。

おわりに

被災地では、次第に国民の関心が薄れていくことに強い危機感を抱いています。私たちが住む北海道でも遠い記憶となりつつあるのを感じています。この取り組みが支援を超えた交流に発展し、双方の市民団体や小学校での苗づくりによる交流なども行っていきたいと考えています。苗づくりと植栽などは時間をかけて行う大切な環境教育であり、またそのことを通して継続的な防災教育へとつながり、いつ起こるか予測不能な災害への備えとなるはずです。このような取り組みを経て、海浜生態系の修復だけでなく、壊滅的・致命的な被害に対する人と自然のレジリエンスを高める手法を検討し、今後の海辺の地域づくりに生かすモデルの構築を目指しています。

 

補注及び参考文献

1) ミツカン水の文化センター編(2005):砂丘はオランダの恵み:水の文化 (19), 24-25

2) クラウドファンディングプロジェクト「東日本大震災で被災した海浜で植生の回復に取り組みたい!」

< https://readyfor.jp/projects/satohama >